医療従事者のためのコーチング入門シリーズ第1弾
医療国家資格を持つ人こそ、オンラインコーチングが難しい理由とは?
医療者がオンラインコーチングで直面する“見えない壁”
医師、看護師、理学療法士など、医療国家資格を持つ方々が、オンラインでプロコーチとして活動を始めようとしたとき、多くの方が思わぬ「壁」に直面します。
それは、「対等な人間関係の築き方」に関する壁です。
医療の現場にある「依存関係」とその正当性
医療現場では、私たちは常に「患者」と向き合っています。
そこでは、「治療する側」と「治療される側」という、ある種の“依存関係”が前提となっています。
医療系の教育課程では、「患者とは社会的弱者である」という前提のもとに、専門的な知識と技術を学んでいきます。
これは、医療という特殊な分野においては必要であり、正当な関係性です。
だからこそ、医療従事者は、厳しいトレーニングを経て国家資格を取得し、病院という枠組みの中で、患者さんに対して安全かつ公正な医療を提供しています。もちろん、そのサービスには法的に定められた公正な費用設定があり、現場で勝手に価格を変えることはできません。
このような上下関係や依存構造が許容されるのは、徹底した倫理観と道徳観を身につけた医療者だからこそ担える責任ある関係なのです。
倫理観で築かれた上下関係が、コーチングの場では通用しない
しかし、この関係性をそのまま病院の外、つまりコーチングの場に持ち込むことはできません。
医療従事者は、日頃から“導く”立場にあるため、知らず知らずのうちにクライアントとの関係性に上下の差を持ち込んでしまうことがあります。
これは、無意識のうちに相手の「自己成長する力」を奪ってしまうリスクをはらんでいます。
医療の場では、「指示する」「導く」「守る」といった役割が求められ、自然と“上から”のコミュニケーションが主流になります。
クライアントは「患者様」ではない
一方、コーチングにおけるクライアントは「患者様」ではありません。
クライアントは対等なパートナーであり、自らの力で人生を切り拓いていく存在です。
コーチの役割は、相手の中に眠る可能性を引き出す“伴走者”。
前に出るのではなく、影のように寄り添い、支える存在です。
たとえクライアントから「コーチのおかげです!」と感謝の言葉をいただいたとしても、コーチはこう答えるのです。
「いえいえ、あなた自身ががんばったからですよ。100%、あなたの力でその変化が生まれたのです」と。
医療者がコーチングで活躍するために必要な価値観の転換
このような価値観の転換は、医療従事者にとって決して簡単なことではありません。
なぜなら、20代の頃から長年にわたり、責任ある医療の現場で真摯に患者様と向き合ってこられたからこそ、今の自分がある。
その姿勢自体が、まさに尊いことだからです。
しかし、コーチングとは「力のない人を助ける」のではなく、「すでに力を持っている人の中にある可能性を、一緒に見つけていく」対話のプロセスです。
だからこそ、医療従事者が「対等な関係性」の本質を深く理解し、コーチとしての新しいスタンスを楽しめるようになったとき、その活躍の場は一気にキラッキラに広がっていきます。