15年ぶりの体験から導き出す決意
久々に、心身ともにお辛い様子の健診受診者から至近距離で怒鳴られる経験をしました。
これは実に15年ぶりの出来事です。
私は現在、保険診療の医療機関ではなく、健康意識の高い方々を対象としたプライベートクリニックで活動しています。ですので、こういった現場特有の緊張感とは、無縁の生活を送ってきました。
それが、ある日、
「どうしても医師が足りない」と懇願されたので、
お役に立てるならと快諾し、健診受診者の医師相談という業務へ出向いてみました。
安全な場所で生きているからこそ、体験程度で笑える
数日間、業務に参加しました。
やはり医療とは違い、健診受診者はある程度健康への理解があります。当然ながら日常生活において自立している様子でした。
しかし、面談をした約600人中、たったお一人が、小さな机を挟んで対面し、健康について話し合う場で、私に向かって突如怒鳴り声を上げたのです。
後でスタッフと検証しましたが、明確なきっかけは分かりませんでした。
ただ、当日は非常に混雑しており、その方がもともと開業医の主治医に対して抱いていた不満が積もっていて、それがたまたま近くにいた同じ白衣を着ている私に向けられたようでした。
こういった例をスラトレ®流で表現するなら、「誰も助けてくれない」という重い“思い込み”です。
ネガティブパワー全開のファイターさん。何もしてあげられないので手短に済ませるのが、その場における最も有効な対応策でした。
大切なこと:「経験はすべて勉強材料」
今回の経験を通じて、改めて医療現場がいかに過酷かを思い出しました。
たしかに、あの現象が毎日、何年も隣り合わせの職場なら──そりゃ、疲れるよね、と純粋に思いました。
今の私の役割は、「辛いね」と寄り添う役ではありません。
まったく異なる立場から、医療労働者への提案を通じて、希望を見いだす役です。間接的な貢献をしていると自負しています。
日本が抱えるこの難題は、今に始まったことではありません。
だからこそ、一朝一夕で解決できることではないと理解します。
しかし、現代の医療従事者は、「働く手段」や「収入を得る方法」を選ぶことができます。
この記事では、医療職が抱える「辞めたい」「続けられない」といった深刻な悩みの背景にある、解決が難しい構造的な問題=トリプルパンチについて解説し、今の時代を平温に生きるための「選べる働き方」についてもご提案します。
なぜ医療職は続かないのか?構造的トリプルパンチとは
医療職が“ブラック”と言われたり、燃え尽き(バーンアウト)に悩む人が後を絶たない理由は、「忙しいから」だけではありません。
問題は構造そのものにあります。
①下からの圧力:患者からの暴言・クレーム・カスハラ
医療従事者の多くが経験する「患者からの暴言・ハラスメント」。
精神的なダメージは計り知れず、日常的に受け続けることで心がすり減っていきます。私が経験した、理由もなく怒鳴られるといった事例もその一つです。
もし院外であれば、通り魔的な暴力として警察を呼ぶこともできますが、医療現場ではそれが難しいのが現状です。
たとえ身体的な暴力を受けても、「少しぐらいなら許容すべき」「耐えるべき」といった風潮が、昔から根強く残っている場所なのです。
②横からの圧力:疲弊した同僚・後輩との人間関係
下からの圧力を毎日、何年間も受け続け、ストレスを抱えた医療現場での労働者たちは、皆ストレスを抱えています。
当然、ギスギスした職場環境になりがちです。
協力よりも“自分のことで精一杯”という空気感が蔓延します。そういった中、年齢が1つ上だから下だからといった言い訳を見つけて、互いに攻撃し合うといった習慣が生まれてしまっても無理はないと思います。
③上からの圧力:制度改定・運営不安・過重労働
医療は「公正価格でのビジネス」です。
日本には国営の医療機関がありません。これは先進国においては珍しいことです。
つまり、診療報酬(サービスに対する価格決め)は国によって決められており、医療機関の経営者であっても価格を自由に設定できません。
たとえば、これまで2,000円だった医療サービスが、政策や制度の変更により突然1,000円に引き下げられた場合、2倍の患者数を診なければ売上は保てません。
ですが、人員はそのまま。なぜなら、人員を2倍に増やせば人件費がかかります。ただでさえ売上が落ちているのに、固定支出が増やせないといった状況です。
結果、少人数で長時間労働を強いられるという悪循環に陥る構造になっています。
医療機関の7割が経営難:現場の限界とは?
厚労省のデータや医療経営専門誌の報告によると、国内の医療機関の約7割が赤字、または経営危機状態にあります。
ですが、もしあなたが政治家になったつもりで考えてみてください。
日本は高齢化が進み、受診者数は増加の一途をたどります。それは数字上、明らかに把握できることですので、もし受診者数が2倍になっていたら、診療報酬を半分にしても構わないだろう──そう思いませんか?
① 現場
② 医療機関運営
③ 政策
日本の場合、③国が価格を決めます。そして、その③の指示をそのまま実行するのが、運営係である②の役割です。
ここで独特なのは②は③から言われた指示を①に届ける「実務的な伝達役」であって、実際の経営者ではないことです。
つまり、医療機関自身が、販売価格を自由に決めたり、経営的な調整を自ら行うことはできないのです。
このように、①②③が息の合った、ぴったりの状況で連携できていればよいのですが──大概はそうではありません。
その結果、制度のひずみのしわ寄せは、最終的に現場に押し寄せてしまうのは構造上変えられないことなのです。
文句を言い続けるほど疲弊する行為はない
このように、連携が不十分なことで生じる負担は、しばしば最も立場の弱い人々に集中します。その結果、憤りを覚える方がいらっしゃるのも当然のことです。
しかし、疲れ切る前に、まずは休息をとることが大切です。
エネルギーを回復し、その上で行動に移すのであれば、必要なのは「正当な訴え」と「やさしい話し合い」です。
たとえば、次のような流れが本来あるべき順序です:
①の声を → ②が拾い上げ → ③に説明・改定を相談する。
①が直接③に文句を言っても、その声は届きにくいものです。
であれば、②に本来の役割をしっかり果たしていただくことが、最も効率的であり、健全なコミュニケーションのかたちと言えるでしょう。
そして、もし②がその声に耳を傾けようとしないのであれば、その組織は運営係としての責任を果たしていないことになります。
その場合、組織の改善は非常に困難になるでしょう。
もしそれでも不満な方は
とはいえ、毎日がしんどいときには、冷静に構造を見つめる余裕がありません。
本記事も文字数が多いと嫌煙されてしまうでしょう。
そんなときは、こんな情景を思い浮かべてみてください。
遠くから海を眺めると、砂浜も海もとてもきれいに見えます。問題なんて見えません。
でも、近づいてみると、海岸には意外にゴミが散乱しています。
さらにその現状を管理している地元の方に話を聞くと、
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ゴミを捨てている観光客が悪い
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定期的に清掃をしない行政が悪い
「辞めてもいい」「選べる」時代が来た
かつては「我慢が美徳」「辞めたら根性なし」と言われがちだった医療職。しかし、今は違います。
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労働時間をコントロールする勤務形態を選ぶ
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ストレスの少ない職場や部署を探す
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国内の医療組織構造をよく理解している運営人を選ぶ
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現場の気持ちをよくわかっている運営
収益結果を強制的に現場に浸透させない風潮
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複数の収入源を持つ(副業や投資・独立)
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一時的に現場を離れ、別の技術を身に付ける
など、多様な働き方が可能な時代です。
加えて、以下のような選択肢も検討してみてください:
・フリーランス医療従事者として自由度を高める
・健診・予防医療にキャリアシフトする
・医療教育・研修分野へ転向する
・医療×テクノロジー分野に挑戦する
・地域医療など人との関わりを重視する職場を選ぶ
・一度医療を離れて、再び戻れる自分を育てる
古い慣習を受け入れ続けるのか。新しい道を模索し、主体的に動くのか。
選択はあなた自身に委ねられています。
よくある質問(FAQ)
Q. 医療職を辞めたいと感じるのは甘えでしょうか?
いいえ、それは構造的な問題に対する正常な反応です。辞めたいと思うこと自体は自然な感情であり、自分を責める必要はありません。
Q. 医療職以外に自分のスキルを活かせる仕事はありますか?
あります。たとえば、企業内産業医、健康アドバイザー、ヘルスコーチ、メディカルライター、オンライン診療など、医療知識を活かした職種は多様化しています。
Q. 今の職場が辛すぎるけど、辞める勇気が出ません…
まずは「情報収集」と「相談」から始めましょう。医療系キャリア支援サービスや、同じ悩みを持つ人とつながれるコミュニティの利用も有効です。弊社は個別相談を承っております。
まとめ|構造に気づき、自分を守る選択を
医療職が「しんどい」「続かない」のは、あなたのせいではなく、構造の問題がほとんどです。
上からも横からも下からも圧力を受けるこの業界で、自分を守る「選択」はなんでしょうか。
資格もキャリアも大事。でもあなたが疲弊しきってしまう前に、一歩踏み出してみて欲しいと思います。
選べる時代に生きていることは、希望です。