なぜ私は衝撃を受けたのか――退職代理「もう無理」逮捕報道を見て
最近、退職代理サービス「もう無理」を運営する企業の運営陣が逮捕されたというニュースが報じられました。
理由は、弁護士紹介をめぐる金銭のやりとりです。
私はこの報道を見て、大きな衝撃を受けました。
退職を言い出せず、心身ともに疲れ切っている人にとって、退職代理はまさに救世主のような存在です。
第三者として、
「すごい仕事をされているなぁ」
と、純粋に尊敬の念すら抱いていた社会的意義の高い事業でした。
だからこそ、思わずこう口にしていました。
「え?逮捕?」
そして、次に湧き上がったのがこの言葉です。
「弁護士、周りにたくさんいるよね?
誰もアドバイスしてくれなかったの?」
最終責任は経営者にあります。
それは大前提です。
しかし私は同時に、こうも感じました。
法の専門家が周囲にいるはずなのに、
なぜ最後の一線を越える前に止められなかったのだろうか、と。
私たちが学ぶべきこと
― 権威性マーケティングが生むグレーゾーン構造 ―
これは医療者起業家にとっても、決して他人事ではありません。
そして同時に、一般の起業家にとっても同じことが言えます。
最近、「脳科学的に証明」「最新エビデンス」「医学的アプローチ」といった言葉を前面に出したサービスが急増しています。
もちろん、真摯に研究を重ねている方もいます。
しかし一方で、専門用語が“権威付けの道具”として使われているケースも少なくありません。
脳科学、量子、潜在意識、ホルモン、神経伝達物質――
言葉は強い。
だからこそ、扱いを間違えると危険です。
問題は、提供者が悪意を持っているかどうかではありません。
消費者がどう受け取るか。
ここを軽視した瞬間に、ビジネスはグレーゾーンへと足を踏み入れます。
「医学的」「科学的」という言葉は、強い信頼を生みます。
その信頼を曖昧な根拠で利用することは、
たとえ違法でなかったとしても、倫理的には極めて危うい。
今の時代は、情報の流通が速い。
同時に、信頼が崩れるスピードも速い。
一瞬の集客よりも、長期的な信用を選べるかどうか。
そこに、起業家の覚悟が問われています。
黒か白かを分ける決定的ポイント
ビジネスがきわどい領域に差しかかったとき、判断基準は極めてシンプルです。
消費者が誤認する可能性があるかどうか。
これが分水嶺です。
たとえ「医療ではありません」と明記していても、
・医学的用語の多用
・効果を示唆するキャッチコピー
・劇的な改善事例の強調
これらが組み合わさることで、消費者が「治療効果がある」と受け取れば、医療広告違反と見なされるリスクが生じます。
グレーゾーンビジネスの本当のリスク
医療従事者が非医療サービスを展開する際、最も危険なのは「グレーゾーン」に安易に踏み込むことです。
最近では、非医療サービス販売を支援する専門的な広告ライティングサービスも存在します。
しかし、忘れてはならないのは、
責任は常に提供者本人に帰属する
という事実です。
行政指導、業務停止、資格問題――
リスクは決して理論上のものではありません。
安全な非医療サービス構築の鉄則
・非医療のラインを明確に定義する
・表現を第三者視点で徹底的にチェックする
・誤認可能性を限りなくゼロに近づける
「白」を積み重ねる経営こそが、長期的な信頼を築きます。
私自身、医師として非医療のメンタル思考トレーニングを立ち上げた際、何度も立ち止まりました。
「これは本当に大丈夫か?」
「誤解を生まないか?」
そう自問自答しながら、線を引き続けてきました。
起業家として羽ばたく前に
起業家として羽ばたく前に。
そして社会的信用を守るために。
攻める前に、まず守る。
まず、守るべき一線を正しく知っておいてください。
信頼は、築くのに十年。失うのは一瞬です。